熱狂は続いているか

エラいこっちゃなことが起こった、あの「10月16日」という日だったり、「102」という数字だったりは一生涯忘れることがないだろうなぁ、って思ったあの日から、もう1年も経っちゃった。リビングにはニトリで買ったラックに、たくさんの優勝記念グッズが飾りつけてあるし、あの日の前日に買って試合当日にさっそく着たA.P.C.のプチ ニュースタンダードはいまもはいていて、徐々に色が落ち着いてきたし、試合の日の朝は風呂場の排水溝も掃除している。そして俺たちのユニフォームにはエンブレムの上に輝く星がついた。

あの日の熱狂は感覚としてずっと残っているんだけど、1年経った今もあの熱狂は続いているのだろうか?今回はそんなお話。


今年はACLに出場したんです。

AFC アジア・チャンピオンズ・リーグ。アジアの各国のチャンピオン達のリーグ。その参加クラブの中に、俺たちの甲府がいるわけですよ。

最初はどこまで通用するのか、ちょっとドキドキだったけど、J2初の勝ち点。J2初勝利。メルボルンにも行って(1泊4日)海外で初めて甲府の試合を観た。ホーム戦は小瀬でできないから国立競技場での戦いだったけど、他のJリーグサポーターも加勢してくれたり、ちょっとしたお祭りみたいな感じで、楽しかった。ACL楽しいねー!そして今日時点で2勝2分1敗。決勝トーナメントもいける。J2の甲府もアジアでも通用するんだ、ということが判ったけど、5試合のなかで一番印象に残ったことがあって。ずっと心に残ったシーンがあって。

MD4 浙江戦 @ 国立競技場。ウタカゴールで先制…だがオフサイドフラッグ。だったがVAR判定でゴール認定され先制。そして前半終了間際のジェトゥリオのカンフーキックからの追加点。前半は完璧だった。ただリードしていたものの、後半開始早々にPKを与えて失点してしまった。フットボールの世界では「2-0は危険なスコア」と恐れられ、2-0のスコアは2-3でひっくり返ることが多い、と、よく言われる。(実は統計的にそんなことはないようだが。)1ゴール返されると相手に勢いが増すためだ、とかよく言われているが、感覚的にそれはなんとなくわかる。その危険な2-0から浙江にゴールを許してしまった。いやな雰囲気が流れた。切り替えろ!その想いが伝わったのだろうか、林田選手のプレスから素晴らしいコンビネーションで左から関口選手がゴール前に走り込み、ニアサイドを狙いシュートを撃ち、GKとポストの間の狭い狭い、狭い間をすり抜け、天井にぶち込んだスーペルなゴールが決まって3-1。いやな時間帯を乗り越え突き放した。これで試合の趨勢は決まったと言って良いが、ボクが心に残ったシーンはそのゴールが決まった後のシーン。

物凄いゴールを決めた俺たちのキャプテンが、ゲーム再開のキックオフ前に喝を入れたシーン。それはスタジアムではもちろんゴール裏では聞こえなかったが、後から試合を見返して、心が震えた。

フルマッチ映像の01:29:30頃から。耳の穴をかっぽじってよく聴いて欲しい。

「へいへいへい!もう1回!もう1回!!」
「おいおいおい!もう一回締めろ!終わってねーぞ!」

スーパーゴールを決めた後も浮かれることなく、その後にもう一回、渇で締めた、俺たちのキャプテン。今シーズン当初キャプテンに就任した地元山梨出身の選手は残念ながら夏の移籍市場で去ってしまった。そこからチームは成績を落としてしまったが、新キャプテンの元でなんとか盛り返した。プレーオフ進出、昇格は叶わなかったけど、最後までその可能性を残して闘えたのは、このマサの一喝とリンクしてたような気がしてならない。マサは結構日頃はおちゃらけている姿も見るけど、めちゃくちゃ熱い漢だと思う。法政で主将だったのもわかる。あの喝は長くボクの記憶に残ると思う。マサ、熱いぜ。


「ベスト・マッチ 2023(ACL)」は11月8日の浙江戦 @ 国立競技場


ACLの戦いがコロナ禍の収束後だったことは、ラッキーで幸せなことだったと思う。ラックはあった。


ACL楽しいねー!


話は甲府のフットボールの熱狂から離れるが、今年もよい音楽と出会えた。今年は豊作だったのではないかと思う。今年の前半はCoachella Festivalのライブ中継で出会ったOvermonoで盛り上がったり、Loraine Jamesも良かった、The Chemical Brothers、ROMY、James Blakeの新作が9月8日、同じ日にリリース日が重なったけど、いずれも素晴らしかったという奇跡の日だったり。その中でも、新アルバムはなかったものの、一つのロンドンJazzバンドとの出会うことができて、それは Ezra Collectiveなんだけど。Ezra Collective。出会えて良かった。今年の後半、彼らの音楽に触れることができたのはとても大きな喜びだった。で、ちょうど彼らのライブが11月28日恵比寿のリキッドルームであるという。悩んだ。悩んだ。翌日29日は甲府 x メルボルンシティの国立競技場での試合で、その数日前から風邪を引いてしまい、とにかく国立には絶対行くぞと気合いを入れて風邪からのリカバリーに努めた。イソジン、イソジン。そして前日までうーんうーんと悩んだ結果、風邪のぶり返しのリスクを回避するため、Ezra Collectiveのライブは諦めた。苦渋の決断というやつ。でもこのバンドのスタンディングのライブは絶対に絶対に踊れるぞ、絶対に熱く狂えるぞと予想していた。わかってたよ、うん。そして当日の夜からXのタイムラインで流れ出したライブの様子。嗚呼、そうなのだ。やはりそうだよなぁ。思った通りだ、と。こんなに後悔したのは久しぶりだ。

ああ、本当にここにいたかった。ここにいて、思いっきり踊りたかった。次にEzra Collectiveが来日したときは絶対に行ってやる。ちくしょう。


「ベスト・オブ・観に行っていないライブ 2023」は、2023年11月28日のEzra Collective @ 恵比寿リキッドルーム。ライブに行かれたみなさん全員優勝です。おめでとうございます。


ライブはいい。フロアで他人の身体にぶつかりながら、音楽に酔いしれる。いくつになっても、あの熱狂を味わっていたい。踊る。声を張り上げる。オーディエンスはステージ上のプレイヤーに喝采を送る。それはスタジアムでも同じこと。ボクがゴール裏にいるのはなぜかというと、そういうこと。ゴール裏から見える試合は、遠近の見え方だったり、大旗が視界を遮ったり、細かなプレーやテクニック、オフサイドだったかどうかなんかハッキリわからない。ただ、チャントを歌い、声を張り上げ、跳ねる。ゴールが決まれば発狂する。オーディエンスはピッチ上のプレイヤーに喝采を送る。そういうことなのだ。


#AOTY2023



話を再びフットボールに戻して。 

甲府盆地はよく夕立が起こる。いつのまにか「ゲリラ豪雨」なんて言い方をするけどボクは「夕立」という言い方の方が好きだ。夕立の時、ザァザァと激しい雨が降り、止んだと思ったら、ぱぁ!と陽が射す時がある。ホーム大分戦のハーフタイムを挟んで前半と後半は、まさにそんな感じだった。… 前半の試合内容は土砂降り模様だったのに、後半はイッキに快晴になった、そんな試合。

前半、8試合未勝利の選手達はどこかプレーを怖がっており、ぼーっと、ふんわりした感じがして、連携ミスもあり、こんなに上手くいかないゲームがあるんだなと思いながら、それでも必死に、届けこの想い。だが、前半を終わって0-2のビハインド。

前半が終わった時、選手達が引き上げる姿を、うーん、どうすればいいか、と眺めていたら、甲府ゴール裏はブーイングだった。甲府のゴール裏がブーイングするのは比較的珍しい。誰が主導したわけではなく、自然発生した感じだった。いろんな想いが綯い交ぜになった感じ。ただ暴言とは罵詈雑言は少なくともボクの耳には聞こえず、どちらかというとHey Boys, Be Brave !! ってな感じで、ちょっとポジティブな感じは受けた。いやでも、ゴール裏の応援もちょっと弱かったよね。そんな雰囲気もあったと思う。

そして後半の開始前、一転して、甲府ゴール裏は前半にも増して大きなチャントで選手達をピッチに迎えた。さぁ行こうぜ、俺らの甲府。後半が始まった。前半とは打って変わって、選手達はなにか吹っ切れた感じで、ボクはフットボールの詳しい事は無知だけど、いきいきと、伸び伸びと、プレーし始めた。土砂降りの雨はあがり、アッパレ、晴れ上がった。そしてスコアは0-2。

そう、2-0は危険なスコア。

0-2から、1-2、2-2。同点。PK獲得。ハズした。またPK獲得。とにかく歌って跳ねた。こんなに熱狂を感じたのはホントに久しぶりだと思う。必死、でも楽しい。

逆転のPKが決まった瞬間、ゴールを決めた俺たちのエース10番は珍しくユニフォームを脱いでゴール裏に飛び込んできた。元希はいつもゴールを決めた後ゴール裏のサポータに飛び込んでくる。昨年の天皇杯でオミがPKを決めて優勝した瞬間もチームメイトと喜びを分かち合う前に、真っ先にゴール裏に飛び込んできた。だから俺たちは歌う。「元希、青赤の元希、ゴール決め来いよ、俺らの元に / 元希、青赤の元希、ゴール決め来いよ、俺らのモトキ」

それでもユニフォームを脱ぐようなことはなかった元希がユニフォームを脱いで、あんなに嬉しそうにゴール裏に突進してくるなんて。それを大歓声で迎えるゴール裏。よっぽど嬉しかったんだろうなぁ。

ボクは前から言っているけどゴール裏はイデオロギーではなくコスモロジーであるべきだと信じていて。チャントを歌って、跳ねて、必死に応援している人。好きな選手だけ注目している人。戦術をじっくり見る人。ヤジを飛ばす人もいる(よくないことであるとは思うが…)。 大事なのは、いろいろな人がそこにいて、良いも悪いもゴール裏にはあって、でもそこでは大きな秩序が形成されていること。そしてそれが一つになった時、パワーと熱狂が生まれて、そのパワーが選手達のエナジーになっていると、そう信じている。

あの試合の、ハーフタイムを挟んで、後半開始から起きた大きな熱狂は、間違いなく選手達にパワーを与え、終盤のPO進出に向けてなんとか踏ん張れたチカラに繋がったのではないかと思う。


「ベスト・マッチ 2023(リーグ戦)」は9月9日の大分戦 @ 小瀬


この文章を公開した時点ではまだ先に進めるのか決まってないが、もちろん最後に笑うのは俺たち。来年もACLの試合が続いていると固く信じている。そして熱狂はいつまでも続くよ。

また来年もいい甲府のフットボールに出会い、いい音楽に出会いたい。大事なのは、次の試合であり、そして次に聴く曲。

この文章は 2023 Advent Calendar 2023 の9日目の記事として書かれました。

昨日はyomoyomoさんでした。明日はbrowneyesさんです。

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